波のように寄せるヴォネガット作品の中でのキルゴア・トラウトなる人物の重要性について
いったいぜんたい
作者自身が自らその作品に登場して、
その大団円をかっさらう、なんてことが
どうしてゆるされるのだろうか!
本当に最高のおじさんだ。
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父はさらに訴えた。
「レオン!レオン!レオン!
人間のことを勉強すればするほど、不愉快になっていくだけだぞ。
自分の国のいわゆる最高の賢者たちによって、
ほとんど果てしがなく、報われるところがなく、おぞましく、
そしてなによりも無意味な戦争に駆りだされたという事実ひとつをとっても、
おまえは人間の本性について、永劫に通用するだけの洞察をつかんだものと思ったのに!
いまさら教える必要があるだろうか?
おまえがどうやらそれについてもっともっと多くを知りたがっているらしい
そのすばらしい動物が、いまこの瞬間にも、生きとし生けるものをみな殺しにすること請け合いの兵器を、
合図さえあれば即座に発射できる準備をととのえて、鼻高々でいることを?
いまさら教える必要があるだろうか?
かつては美しく栄養ゆたかだったこの惑星が、いま空中から見ると、
死後解剖で露出されたあわれなロイ・ヘップバーンの病んだ器官そっくりになったこと、
そして、成長そのもののために成長し、すべてを食いつくし、
すべてを毒で侵しているその見かけ上の癌腫が、
実はおまえたち人間の愛する都市であることを?
いまさら教える必要があるだろうか?
これほど万事をだいなしにした動物が、
もはや自分の孫たちのまともな生活ぶりさえ想像できなくなり、
紀元2000年にまだなにか食べ物や娯楽が残っていれば奇跡だと思っていること、
そして、その年がたったの14年先にせまっていることを?
せがれよ、この呪われた船の乗客とおなじように、
人類は海図も羅針儀も持たない船長たちに導かれ、
その船長たちは、重要な問題などほったらかしで、
自分の自尊心をいかに守るかにきゅうきゅうとして、
一瞬一瞬を過ごしているだけなんだ」